作品3 「里」(216cm×171cm 2006年)
作者の言葉 自然と人の織り成す造形、そして歴史・・
棚田
人間が切り開き作り出したとは言え、もともとは自然の形を 削りとっ
たに過ぎないが、その形には、何かしら魅力がある。
山あり、棚田あり、人家ありで、絵画的には要素を詰め込み過ぎて、
ずいぶん欲張りな絵で、出来も今一なのだが、
どうしても、この三つを織り込んで描きたかった。
私の未熟さで、もっとも表現したいものが表現されていない。
この地は、奈良県明日香村の石舞台古墳の裏手にある 稲淵の棚田だ。
歴史ある土地で、そういう観点からか、見るものが、どれも古(いにしえ)から
の 悠久の時間の中に存在しているように感じてしまう。
そうなのか、どうなのか、山の緑も、木々の葉も、とてもやさしさを
醸し出していた。
三重県(私の在住地)の針葉樹の山とは、確かに違う。山の形も、
ほっこりとした丸みがあり、人の心を包み込むように、誘われる。
その微かにちがう、最初の印象を、本当は、描きたいところだった。
それが全てだったのかもしれない。
特に春の竹林は、ほのかな輝きを放っていて、心を撫でるように
溶かされ、吸い込まれてしまう。
言葉にすればそんな感じだが、そういう空気に包まれているのが
この地方の特長のように思った。
歴史と、自然と、人の営み、そこに醸し出されるやさしさ、包まれている
ふんわりとした空気。
“まほろば”ならではののんびりとした里である。
なぜ、山から田んぼから人家までを画面に入れたかったのか。
それは、私の思想の根本的なテーマで、
この地球に生まれ、誕生した人類が、この地球や自然界と
どう付き合い、生きていったらよいか、という問いの答えを
探しているからだ。
山は自然、人家は人の行為、田んぼは、そのちょうど中間で
人と自然の営みの調和点としてとらえている。
田んぼの造形的な美しさも、人と自然が作り出した造形美とも
言える。こういう自然との関わり合いが、本当は、人間にとって
この地球上で生きていく道なのだと思う・・・