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社会問題を提起「若者のやり場のない辛さ」  

映画『憎しみ』(カソヴィッツ監督・1995年・フランス)

映画を通してフランスの歴史を知る 第8回 《8月20日》
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                講師の大嶋優さん(関西学院大学フランス語講師)

英暴動事件とシンクロ

偶然とは言え、大嶋さんの取り上げる映画と世界がシンクロしていることに少しの興奮を覚える。
8月6日、イギリスで若者による暴動が起きたことが既にニュースで報じられていた。
黒人男性が警官に射殺された事件を発端にロンドン各地に暴動が拡がり、黒人の若者を中心に警察車両の破壊、商店の略奪、放火などの暴徒化が起こった。背景には黒人社会と白人中心の警察の対立があるらしい。

今回8月20日、SCSカルチャーカフェでテーマにした映画『憎しみ』の内容と、ほとんど一致する現実に、大嶋さんもやや驚きを露に、英暴動事件を枕に語りはじめた。舞台は、フランス郊外という違いはあったが、「その根底は同じものがある。この映画で考えて欲しい」と。

この“偶然の一致”の話をすると、前回(7月16日)取り上げた『トリコロール/赤の愛』では、盗聴を愉しむ元判事が登場する。これとシンクロしていたのが、英日曜大衆紙ニューズ・オブ・ザ・ワールド(廃刊)の盗聴事件だ。このニュースが報じられている最中に、私たちは偶然にもその盗聴を扱った映画の解説に耳を傾けていたのだった。

取り上げる映画はその一ヶ月前に予定され、このHPでも予告している。そんな偶然を今回はとても楽しめない、やり場のない社会問題を突きつけられる。
大嶋さんは「これが現実です」と、繰り返し訴えた。

講座後、映画を見た吉田順一さんのレポートをまずは紹介したい。記者の映画評は、後日、映画を充分反すうしてから書いてみたいと思う。(ここまでは岩田記)
「社会の怒り・憎しみと向き合う」記事後編へ


監督のマチュー・カソヴィッツ俳優でもある。

20代に戻ったつもりで…

「この映画は監督が28歳 1995年の作品です。20人ほどの学生にも観てもらったのですが、共感できると言った若者が2,3人でした。」

初めにこんなことを大島さんから出されたら、「難しいやろうなあ。理解も共感もできやしないだろうな」と、僕の中では勝手に思いが出てきた。ホワイトボードには、全面を使って、フランスの“移民”についてのことが数字と文字とを使って、あらかじめ書かれていた。見て、その中身の方へと自分の関心が向いてゆく。

大島さんはいつものように、薄土色っぽいジャケット、ズボンだったけれど、髪がいつもより短く整えてあり、僕はその髪型スタイルに好印象をもった。

“憎しみ”の背景は?


話はボードの初めから順々に進んでいった。第一次世界大戦でたくさんのフランス人がなくなり、そのために欠けた労働人口を補うために、当時の人口の6パーセントにあたる270万人の移民を受け入れたこと。

そうしてフランスに入ってきた人たちの、働く場は、一般のフランス人が、嫌がるような仕事に就くことが多く、それは今もつづいているということだ。

住む場所も低家賃の一定地域だという。僕の頭の方では、“憎しみ”が生まれてくる背景や土壌みたいなものをこのあたりから、探し出そうとしていた。貧しさ、差別、機会不均等…などなど虐げられた人々の鬱憤。充満したら爆発するしかないといった、僕の中の当たり前感覚で、大島さんを聴き、映画を観ようとしていた。

暴動の起こった翌日、一日3人の若者がとった行為…最後の最後まで目が離せなかった。暴動で落とされた、警官のピストルを隠しもったヴィンスは、何度と無く怒り、鬱憤みたいなものを爆発させたい欲求に強く駆られることもあった。「ああーやった。やってしまった。」みたいに、僕の中では先読みして、後でそうではなかったことに気づかされ、ほっとして、最終章まで映画はすすんだ。

“また明日”

朝の3人の別れ際が、僕にはとても印象的で、というか交わされる言葉なのだけれど、「じゃあ、“また明日”」というあいさつ言葉なのだが、僕の頭の中は「明日は朝にくるもの」みたいな観念があるのか、そこから見ているのか「おかしなことを言うなあ」と思い見ていた。

映画はこれで終わらなかった。

ヴィンスとサイードがユベールと背を向けて歩いて行く先に警察の車が…あ、そうだ!ヴィンスは、今まで自分が持っていたピストルを、手を伸ばしてユベールに渡していた。これを見て僕は、「ああこれで終わるなあ」と思いかけた。…ところが、車にふたりが近づくやいなや、警官が走りより、ヴィンスたちを捕まえようとして車に押さえつけようとする。その時だった。誤って警官の振り上げた右手に持たれたピストルから一発「ヴァーン」という音。頭を撃たれたヴィンスはその場に崩れおちる。

銃声をきくなり、ユベールは走り出していた。ユベールと警官の双方が拳銃を相手にめがけた。至近距離だ。そして、暗転と同時に「ヴァーーン」という音がして映画は終わった。

自分の人生・理想は?

重いテーマと感じれば感じるほど、今自分に何ができるのか、自分の人間観や、社会観というものがどうなっているのか、考えざるを得なくなってくるようだ。そしてまた。少しづつだけれど、フランスという国の実際というものにも関心がわいてくる。

講座の後、中井宅で大島さんの話を聞くことができた。今回はその中で何度も「何か、自分からしてくださいよ」という言葉が出てきていたこと… また「自分の人生や、理想というものをどう考えているのですか?」という問いかけもあって、僕にとってはますます無くてはならない貴重な時間に思えてきている。

(吉田順一)


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次回の予定

11月の開催になります。日程が決まり次第お知らせします。
時間は
(土)夜19:00〜21:30です。

今回はアラン・シャバ監督の『ミッション・クレオパトラ』を取り上げます。

みなさん、『アステリクス』はご存知でしょうか?そう、フランスで絶大な人気を誇る長編漫画。『ミッション・クレオパトラ』はその漫画をもとにした映画です。

登場人物のアステリクス、オベリクス、パノラミクスの共通点は……最後がイクスで終わります。おぼえていらっしゃいますか?この講座の一回目に取り上げました『ヴェルサンジェトリクス』。リクスは「王」を意味しました。アステリクスはさしずめ「星の王」でしょうね。

ところで、監督自身が端役として映画に登場します。映画用語で「カメオ」と言います。前回の『憎しみ』のカソヴィッツ監督もスキンヘッドとして映画に登場しました。監督が映画に顔を出す?ヒチコックが有名ですね。彼の場合は控え目ではありますが。

さて、抱腹絶倒のコメディ『ミッション・クレオパトラ』をとくと解説いたします。

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