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1月22日、第一回目のサイエンスカフェ
「環境と文明シリーズ」が開催されまし
た。講師は、荒田鉄二氏。
現在の文明社会の問題を人間の本質
から解明しようと、豊富な知識と研究を
元に、知性あふれる発表となりました。

右のレポートは、荒田さん本人に、今
回の内容を要約して頂いたものです。


















コメンテイターを務めた内藤正明氏。






































サイエンスカフェ 環境と文明シリーズ 第1回 

『モノを作る生き物としての人間と環境問題』 《1月22日》

     荒田鉄二(NPO法人KIESS研究員・鳥取環境大学准教授)


1. 人類の起源と歴史

ヒトとチンパンジーの共通の祖先からヒトを区別する特徴は、直立二足歩行と犬歯の縮小にある。アフリカのチャドで発見された700〜600万年前のものと推定される猿人の化石は、首の骨が頭蓋骨につながる大後頭孔の位置から判断して直立二足歩行をしていた可能性があり、今のところこれが人類最古の化石とされている。直立二足歩行の確実な証拠としては、二足歩行をしていたアウストラロピテクスの350万年前の足跡化石が見つかっている。

直立姿勢を取ることの意味は、前肢が解放されて手となることにある。直立姿勢はまた脳容量の増大も可能にし、手と脳の相互作用が道具の製作と使用を伴う文化を発達させていった。そして、ある時から人類は、環境に対して生物学的に適応するのではなく、新たな技術を生み出し、改良することにより文化的に適応するようになっていった。

2 . ヒトはなぜモノを作るのか?

ヒト以外の動物は、特定の環境に適応するように特殊化という方向で進化した。それぞれの種は自然の中で特定の生態的地位(ニッチ)を占めており、その環境にピタリと嵌るように生物学的に進化してきている。
これに対し、ヒトは非特殊化という方向で進化した。このため、生物種としてのヒトには特定の生態的地位がない。特定の生態的地位を持たないヒトには、他の動物のように先天的に与えられた得意技がない。シカのように逃げ足が速いわけでもなく、ライオンの爪のような強力な武器を持っているわけでもない。
しかし、その代わりにヒトには、何でもできる潜在能力が与えられている。この潜在能力は道具を使うことによって特定の方向で顕在化される。例えば、ヤリを持たせれば人間はライオンよりも強い最強のハンターとなる。
先天的に与えられた得意技を持たない人間が自然の中で生きていくためには、道具を使って何れかの場所の環境に文化的に適応することが必要であり、人間は道具を使って潜在能力を顕在化させること無しには生きていくことができない。これがヒトがモノを作る根本的な理由である。

3. 本能の足りない動物としてのヒト

特定の生態的地位を占めているヒト以外の動物は、その行動も特定の環境で生き延びるために最適な行動がとれるように進化しており、その行動パターンは本能として生物学的(遺伝的)に固定されている。
これに対し、特定の生態的地位を持たないヒトは、特定の環境で生き延びるために進化し、本能として生物学的に固定された行動パターンを持っていない。このため、ヒトは生き延びるために何をすればよいのかを自分で考えなければならない。
ヒトは好きこのんでホモ・サピエンス(知性ある人)なのではなく、生き延びるためには知性を使わざるを得ないからホモ・サピエンスなのである。
ヒト以外の動物には、生き延びるために必要なものは、体も本能も全て自然によって与えられているが、そのような意味ではヒトには何も与えられていない。本能の足りない動物としてのヒトは、生き延びるための方法を自ら考え出さねばならなかったのである。

4. 住居の意味

ヒトはなぜ家を建てるのだろうか。
人間は最も身近なところでは、衣服を着ることにより、その内側に人工環境を構築し、暑さ寒さから身を守ってきた。家を建てることにも、衣服の場合と同様に、人工環境を構築して自然の環境から身を守るという面がある。
しかし、住居の意味はこれだけではない。より重要なのは、人間に考える場を提供することである。本能の足りない動物である人間は、生き延びるためには考えなければならないが、考えることは、周囲の環境から注意を逸らすことを要求する。そして、深く考えるためには、周囲から注意を逸らせても安全な場所が必要になる。
人間の住居は考える(作戦を立てる)ための場所であり、この点で、繁殖のための動物の巣とは異なるものといえる。 。

5. 開発の終焉

道具の製作以来、人類は自然物から人工物を生み出してきた。人類はまた、衣服、家屋、都市などの人工物を自身の周りに配置し、人工環境を構築することにより、暑さ寒さなどの自然の脅威に対抗してきた。
農耕を始めた人類はまた、光合成に基づく地球生態系のエネルギーの流れを、人間社会の方へと大きく変えた。人類は、その登場以来さまざまな形で世界の人工化を進めてきたが、その結果、今日では人工環境が大きく拡大し、自然生態系の存続が脅かされるに至った。
地球の大きさは決まっており、人工環境が増えれば自然環境は減らざるを得ない。近年問題となっている生物多様性の減少は、このことの結果である。
人工化により環境を人間に適応させる行為一般を「開発」と呼ぶならば、地球環境問題の顕在化は、「開発」が限界に達したことを示しているといえる。

6. 今必要なこと

@ 作戦を練り直す
世界を人工化していくという、これまでのやり方が通用しなくなったのだとしたら、今必要なのは作戦を練り直すことである。我々は「開発」に替わる新たなコンセプトを見出さなければならない。

A 頭の中を作り変える
人間は、生きるためには行動し、外の世界に働きかけねばならないが、有効な作戦計画もなく行動しても無駄である。本能の足りない動物である人間が、行き詰まったときにまずすべきことは「頭の中を作り変えること」であり、世界を作り変えるために行動するのはそれからである 。

B 自己沈潜
考えることなく行動するのは、人間以外の動物のすることである。自然によって全てを与えられている彼らには考える必要がないので、それで十分であり、彼らにはそもそも引き籠もるべき自己など存在しない。
本能の足りない動物である人間が、作戦を練り直すために安全地帯に引き籠もること、これが自己沈潜である。

20世紀が「行動」の時代だったのに対し、今求められているのは、それとは正反対の態度である「自己沈潜」といえる。


第1回参加者の感想より

環境問題を考えるのに、人類という種の 特性から考える内容に興味を覚えました。自然の中で生存するための本能が欠けていた人類が、それを補うために道具や技術を使ってきたという話があったように思いましたが、今日ではその道具や技術が度を過ぎて、逆に人類の生存を脅かすという矛盾に直面しているようにも思われます。次回以降の展開が楽しみです。


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