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人と人の、融和へのドラマ 

映画『ムッシュ・カステラの恋』(1999年、監督アニエス・ジャウィ )


フランスまるかじり 大嶋優のオーシネマ・カフェ 第21回 《12月9日》

 >>> 吉田さんのレポート  >>>記者のレポート



     講師の大嶋優さん(関西学院大学フランス語講師・翻訳家)

フランス映画は、エンターテーメントではなく芸術なんだ。鑑賞者はどのように受け取ってもよいし、想像力は見る側の視点で大いに膨らみ、楽しめる。だから、ただ見て終わり、楽しかった、で終わらないところに大いなる価値が潜んでいる。その価値を引き出して、人間や文化の尊さに触れることが芸術を鑑賞するということではないか。そのナビゲーター役が講師の大嶋さんなのかもしれない。

…と記者でもあり、「オーシネマ・カフェ」を応援する一人としての戯言である。

今回取り上げた『ムッシュ・カステラの恋』は、日常の人間ドラマを扱ったもので、人と人との心の機微が描かれ、反発から融和へと変わっていく姿に共感を呼ぶものがあった。きっと吉田さんの心にも様々な反応を引き起こしたにちがいない。 まずは、 そのレポートを紹介したい。(いわた)


女性監督の視点で


中堅企業の社長さん、カステラ氏。

とても肩のこらない映画だった。映画の方からというよりは、観ている自分の中に起こってくる反応が、僕を楽な方へ楽な方へと導いてくれたような気がする。

「水平の視線」 

何が一番楽だったかな?
それは、「水平の視線」が、映し出される場面に一貫して感じられたことではないだろうか?僕が女性監督ということを意識していたせいもあるかもしれない。今まで大嶋さんが紹介してくれた映画の中では感じなかった、こんな視点から映画を観ている自分に、新鮮なものを覚えた。

「人と人」

邦題『ムッシュ・カステラの恋』から、「一体どんな恋だろう?」と最初の関心はいった。しかし、恋は恋でも一言ではとてもくくれない、はかない、せつない、かなわない、成就する、そんなことをいくら並べても、なにか虚しくなるような、僕の頭の中の恋妄想を、映画の方はさらさらと、水平視線で、現実(実際)の方へと僕を引き戻し、そこからまた一緒に生き始めることを認めてくれるような、そんな映画だった。


カステラ氏が恋をする女優で英語教師でもあるクララ

映画のラスト、舞台の上から女優はカステラ氏を探す。始まった頃には見えなかった彼の姿、その彼が彼女の視線の先に見えた。そして、かすかに口が動いた。「ブ・ラ・ボー」と言っているかのように。

余り乗り気ではなかった観劇だったが、カステラ氏はそこに見た女優に心惹かれる。初めはやる気の無かった英語の勉強も、先生がその女優とわかってからは、一生懸命勉強をやりはじめる。「わたし、口髭嫌いよ」とある時女優が言うのを聞いて、翌日には、髭を剃って現れる。


恋の告白をするカステラ氏

中堅会社のボディーガード二人ついた社長さんという感じはなく、本当にひとりの初老の男性が、女優に恋をするといった感じが僕にはとても親しみを感じさせてくれた。女優は40歳、結婚をしたいと思っている。しかしカステラ氏に対しては全然といってよいくらい興味、関心がわかない。それの一番如実に現れた場面は、カステラ氏が英語の詩で彼女に告白するところだ。読み終えた彼が、「これはあなたに対する僕の気持なんだ」と言う。それに対して、「わかります。でも私にはあなたにそういう関心がありません。わかってくださいね」というような気持を言葉にしていた。

心のやりとり


二人のボディーガード

二人のボディーガードのやりとり。始まりから終わりまで、彼らの会話場面は、映画の一つのエキスのようにずっと下支えしているように感じた。またバーで働く女マニーと、二人のボディーガードとの間柄、最後、ボディーガードの仕事を終え、マニーのところへやってきた男。しかし、彼は彼女の住むアパートへは入って行かなかった。部屋からカーテン越しにその彼を見ている彼女。カステラ氏と奥さん。カステラ氏と会社の部下。カステラ氏の奥さんとカステラ氏の妹。などなどこの映画どこをとっても“人と人”の間柄、こころのやり取りが見えてくる。

最初は全然相手のことが認められなかったものが、或る時は、会社の部下が「会社を辞めます」とカステラ氏に辞表を差し出した時、「辞めないでほしい」と言って辞表を戻した時。またカステラ氏が家を出て行った後、奥さんが義理の妹のところへやってきて、それまで否定的に見てきた彼女の好みを受け入れ、彼女の腕の中で泣く場面の奥さんとカステラ氏の妹の心のやり取り… 

女性監督ならではの


マニーの部屋で

最後に心に残ったシーンをいくつか…
マニーの部屋、ベッドに入っているふたりを上から覆う茶色のふわふわとしたシーツ、あの照明の明かり具合。
通りに面した家の壁面の水平感と、グリーンに塗られたその表面の色具合。
マニーがカーテン越しに男を見つめた時の、金色に輝いて見えた彼女の顔、全体像そしてカーテン。
見間違いや、勘違いも多々あるかと思うけれど、フランス映画ならではの、またこの女性監督ならではの素敵な映画であったことに変わりは無い。

こんな映画を紹介してくれる大嶋さんに改めて感謝ということもないけれど、これからも、僕は僕の出来るところから、いろんな協力を惜しまずにやってゆきたい。

(吉田順一)    このページのトップへ


人は変わるものだ。 カステラ氏にまったく愛想もなかったクララもやがては… 反発していたエリート部下が… オセロの石をひっくり返すように変わっていく。その始まりはムッシュ・カステラからだった。それぞれが何かに気づいていくような… そこに共感するものがあるなら、決して作り話ではない。次回、記者のレポートをお楽しみに。(記者:いわた)

記事は続く>>>記者のレポート 思い込みが外れて見えてくるハーモニー  

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