映画『ギャルソン』(クロード・ソテ監督・1983年・フランス)
映画を通してフランスの歴史を知る 第10回 《12月17日》
講師の大嶋優さん(関西学院大学フランス語講師)
レストランで「ギャルソン!」(給仕係)を呼ぶときのポーズをやって見せる大嶋さん=写真。
ただし 「ギャルソン!」という呼び方は既にに古く、今は、「ムッシュ!」とか「シル ヴ プレ!」と呼ぶそうだ。(会場の皆さんも実演した)
イヴ・モンタンの『枯葉』、青年と晩年とでは
どうやら今回の映画『ギャルソン!』の主題は、俳優、イヴ・モンタンその人にありそうだ。
大嶋さんの解説によれば、「これぞイヴ・モンタン」という作品だそうで、「クロード・ソテ監督は、イヴ・モンタンの魅力を十分に引き出している」らしい。
大嶋さん自身、この映画を30代、40代、そして今回の講座にあたり、3回見たが、今の年齢になって、イヴ・モンタンの演ずる主人公の気持ちが次第に肯けるようになったと言う。
同じ映画を何度も観る、同じ本を何度も読む、という大嶋さんが惚れ込む、イヴモンタンとはどのような人なのか。
「イヴ・モンタンをご存知ですか?」と早速会場に問いかける。
会場からは「名前だけは…」とか、パラパラと手が上がる。
実は、イヴモンタンといえば、『枯葉』 。『枯葉』といえばイヴ・モンタンと言われるくらい有名な歌手なのだとか。
(無知な記者は肩身が狭い。ところが、「今の若いフランス人に聞いてみると、イヴ・モンタンを知らないというんですね」とのこと。「だから知らないってことは、若いということです」という。その言葉に内心ホッとする記者)
その『枯葉』の曲を、モンタンが30代の時に歌ったものと、晩年のコンサートで歌ったものをテープで聞かせてくれた。
そして、「みなさんはどちらの歌がいいですか?」と訊ねる。
ほとんどの人が晩年の方に手を上げる。
大嶋さんも「やはり、情感があるというか…」、と晩年の歌を好んでいる。
イヴ・モンタンは、1991年に71歳で亡くなっている。今回の映画に登場したのは62歳の時だ。
ギャルソンとしての演技はプロのスタッフから指導を受けたというイヴ・モンタン。その振る舞いは華麗だ。
映画はパリのブラッスリー(庶民的なレストラン)で、ギャルソン(給仕係り)のチーフとして働くアレックス(イヴ・モンタン)の日常を綴った粋なドラマだ。
20年前に妻と別れ、父親の残した土地に遊園地を作ることに乗り出す。ギャルソンとしての身のこなしは巧みで、店は活気に溢れ、客や厨房のコックとの対応にもそつがない。私生活では、常に恋する女性が周囲を取り巻くモテぶりで、振る舞いから台詞から格好よすぎといったところだ。
大嶋さんいわく「ジェームスボンド役のショーンコネリーのように最初から最後までただ格好いいだけと違う」。
そう、同僚から憎まれ口を叩かれたり、女性に振られたり、交通違反でどやされたり、時に苛立ちを見せたりと、抜けた部分も見せつつ、人間味を漂わせる。
Fさんは、「表情やストーリーに『男はつらいよ』の寅さんのようだ」と感想をもらしていた。飄々とした姿と人へのやさしさは、相通じるものがある。
(実は、記者の目で、Fさん自身が寅さんのようにも映るのだが、Fさんは、自分自身を映像に見ているのだろうか)
そのFさんのレポートは、役者イヴ・モンタンの演技さばきをよく捉えている。
まずは・・
彼のウエイター長の姿とやや弓状の背筋と
踊るかの様な歩と、
テーブルの上にあるスプーンを
トランプ並べごとく鮮やかに片付ける手さばき。
パッパッとスーツ姿に着替えるさまや、
肌に直にYシャツと首に垂らす黒いネクタイ
しびれるぜ!
ひと模様は・・
彼の容姿と不釣合いな職場の友や同居人
彼の乾いた魅力と永遠の女性たち
彼の思想とその思想片が映画の中に遊園地作り?
なかなか興味を抱くところだ。
移民という境遇と若くして当時有名な
シャンソン歌手に認められなおも
映画俳優としても名声を得ていく。
僕の勝手な思いながら青空思わせる容姿
と湿ってく時間の欲求のこころに、
遊園地のスコールであり,
遺作の『IP5』の森の中の雨か?
若い頃の(枯葉)70歳の頃の(枯葉)
を会場で聞かせてもらって。
今(枯葉)歌詞を見、歌詞の最後に、
大嶋先生・・
詩ブレベェル、作曲コスマ、歌イブ・モンタン
とまさに極め付きのシャンソン、
6ヶ月の最後をしめくくるにふさわしい、
名曲名演奏です。
(T・F)
遺作の『IP5』は、モンタンが亡くなった翌年に発表された作品。雨に打たれながら自らの死を諭すようなセリフを呟くシーン。
イヴ・モンタンの遺作となった映画『IP5』のラストシーン
吉田さんは、大嶋さんの意図や監督クロード・ソテの真意を汲み取ろうと関心を向けている。そのレポートを紹介したい。
→→→「監督の意図、大嶋さんの真意、そしてイヴ・モンタンとは?」吉田レポート
イヴ・モンタンの魅力に迫るA B
次回予告
今回はフランソワ・オゾン監督の『8人の女たち』(製作年度は2002年)をご覧いただきます。
ミュージカルと言えば、『シェルブールの雨傘』、『ロシュフォールの恋人たち』、『想い出のマルセイユ』などが有名ですが、『8人の女たち』も記憶に残るミュージカルです。しかも、ミステリー仕立ての。
タイトルが示す通り、8人の女たちが繰り広げる歌あり踊りありの心理ドラマ。まるで劇を観ているような映画。そう、17世紀古典悲劇の中心的原則、「筋が一つ、場所が一定、一日で終わる」という「三単一の法則」を地で行く映画です。
ところで、みなさん、ドヌーヴはお好き?