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「離苦解脱の道」とは如何に? 

『今こそ宮沢賢治を読もう』C 『二十六夜』  《6月26日》
@ A 


児童文学者の牛丸さん

フクロウの坊さんが経を説く

いったい梅雨はどこへやら。蒸し暑い午後、牛丸仁先生によるカルチャーカフェ『今こそ宮沢賢治を読もう!』シリーズ第4回が、6月26日に開講された。

今回取り上げた作品は『二十六夜』。
梟(ふくろう)の坊さんが出てきて、仲間の梟たちに経を読み説法をはじめる。
二十六夜とは、月齢のことで、明け方近くに出る下弦の月の晩に、菩薩様が現れるという月待ち信仰が背景になっているとか。

「猛禽類の梟が、 夜陰に乗じて小鳥や田螺の命を奪って生きている宿命的悪業をどう克服すべきか」(梟に限らず、もちろんわれ等人間にも言えることだが)
「最近、アメリカのテロ首謀者の殺害事件がニュースになったが、報復の連鎖を生むだけだという主張がある。人間のこうした理不尽さをどう考えるか」
といった問題を『二十六夜』から読み解こうというの今回の意図である。

物語は、お経や仏教用語が入り、ややとっつき難いが、そこは先生の解説入りで難なく理解が進み、話の面白さに引き込まれていく。
「梟を自分に置き換えて読んでみてください」と一言置いて、今回は、先生が最後まで読み通した。

梟の坊さんの説法は、悪業苦業から如何に自由になれるか、という「離苦解脱の道」を説いたもの。
梟たちが崇拝する「疾翔大力」と呼ばれる捨身菩薩がいる。菩薩になった経緯は、もともと雀だったが、自分を犠牲として飢饉で飢えた親子を救い、その功徳によって仏に出会い菩薩になったと説く。
説法は三日間続くがその最中に事件が起きる。
梟の子どもである穂吉が人間につかまり、両足を折られてしまうのだ。仲間の梟たちは復讐を叫ぶ。しかし梟の坊さんは、
「仇を返したいのはもちろんの事ながらそれでは血で血を洗うのじゃ。こなたの胸が霽(は)れるとき彼方の心は燃えるのじゃ」と諭す。
報復は暴力の連鎖を生むだけだと。講釈に梟たちは踏みとどまる。
すると二十六夜の月から三人の菩薩が現れる。穂吉を連れに来たかのように。穂吉は笑ったまま息がなくなる。

この坊さんの言葉を朝日新聞『天声人語』(2011.5.4)は引用し、ビンラディン容疑者を討ち取ったニュースに苦言を呈している。

“空”とは…あるがままに生きていくこと

参加者は、先生の朗読に耳を傾け、編集された原稿を読みながら内容を汲み取っていく。段落ごとに入る先生の解説やヒントに頭脳を動かし、今回の主題である、「離苦解脱の道」をめいめいが探っていく。
牛丸先生は、ご病気で通院中の身でもあり、月に一度治療を受けながらこの講座を続けている。先生自身は、健康の続く限りと講座に意欲的だ。参加者もその事情を知りつつ、先生の発する言葉の一言一言を大切に受け止めている。

「“離苦解脱の道”、これを般若心経では“空”と説く。この世のものは、そのものとしての実態がない。すべてのものは空である…」
参加者との問答から話は広がり、
「あるがままに生きていくことか」 と先生は言う。
「あ、今日は、こんなに長い文章を読むことが出来た。この喜びは大きい」

最後に、参加した吉田さんの感想を紹介したい。先生の人物に触れて受け止めているものが伝わってくるようだ。
更に、今回初参加の女性から思いの丈を込めた感想文が寄せられた。
震災・原発事故と私たちもまた苦しみの中にある。自己の内に悪業苦業を置いたとき、一つの道が見えてくるという内容である。
>>更なる思考へ「離苦解脱の道」を考える

僕は、今大きな出会いの時に遭遇している

「梟を自分に置き換えて読んでみる」どうこの物語を読むか?!という時に、牛丸先生の出されたヒントがこれ。ひとりで家で読んだ時にも、何とはなしに自分を梟に見立てて読んでいる時はあった。でも、実際に今日先生の解説を聞きながら、どの場面でも事は梟じゃない、人間、この自分なんだ、いうことが今心によみがえってくる。
 最後の感想の時に、伊藤さんが出していた、「人間、自分は、もう、どうしようもなく救いようのないものだ。一体どうしたら?いいのだろう?」という心の問いは、僕にも響いてくる感じがした。

”離苦解脱”の道はあるのだろうか?
僕には、今先生の心の内を理解することはできない。けれども、「自分の人生の最終章を、どう画くかそこを考えている。」と聴いて、もっと先生の心元に近づきたくなる自分がいた。僕の前に今存る、その人。僕は、今おおきな出会いの時に遭遇している。宮沢賢治という人の作品を通して、牛丸先生というひとりの人間に出会っている、このかけがえのない瞬間瞬間。
 僕の人生の物語を、僕はどう描いてこれから生きて行くのか、道ははっきりとあるような気がしている。
「あるがままに生きる」は、先生が最後に出されたヒント。僕にはそう思えた。
                                            (吉田)


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次回は、7月31日の予定。作品は「どんぐりと山猫」を取り上げるとのこと。
また、 7月10日(日)には、特別講演として牛丸先生の「生きる物語」と題する講演会が開催されます。是非ご参加下さい。詳しくは→こちらを (記事:いわた)

更なる思考へ「離苦解脱の道」を考える

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