食卓から考える鈴鹿の街づくり
「地産地消」の実現と課題 それぞれの立場から
第2回エコライフチャレンジセミナー 開催 《10月16日》
会場と活発に議論を重ねる
秋の第2回エコライフチャレンジセミナーが10月16日に開催された。今回のテーマは「食卓から鈴鹿の街づくり」。講師は、今春「鈴鹿市の地産地消推進条例」成立に尽力した元市議会議員の杉本信之氏。その経緯と現状を発表。楠部孝誠氏(石川県立大学生物資源工学研究所)は、日本の食糧事情と地産地消の現状などを報告した。
会場には、農産物直売所の経営者や農業経営者、流通業者、主婦・学生などが参加し、それぞれの立場から、講師の話を聞いて、直面する現状を語り、食と農、地域経済・暮らしや文化といったテーマに及んで、私たちに出来る次の一歩を探った。
まとめ役の内藤正明氏は会場からの発言を取り上げ、整理し、問題点や課題を浮き彫りにしながら方向性を提示した。
議論は終始活発だった。「難しい問題」と考えていた人も、「キッカケさえあれば案外簡単だ」という光も見えたりもした。以下、記者の印象に残った発言をまとめた。
杉本氏
■鈴鹿市で地産地消を推進したい
まずは、杉本信之氏(元鈴鹿市市議会議員)の報告。
2年かけて勉強会を重ね、1年かけて「鈴鹿の地産地消推進条例」を練り上げ、今年2月に可決し4月施行へと運んだ。その経緯・経過、現況を語った。
「鈴鹿市は、農地もあり、農・商・工のバランスがとれた街だと言われるが、実際の戸数では1対10対100の割合だ。日本の食料自給率が40%に対し、鈴鹿市も農地は広いが、自給率も40%に過ぎない。鈴鹿は全国的にはさつき産地として有名だが、西部地区では放棄地が500haあり、現状は衰退し、漁場も悪化している。
緑ある農地や海を守り残していくのが第一次産業の役割だと思い、まず現状を知ろうと議員たちで2年間かけて勉強し、1年かけて条例案をつくり、今年の2月に条例を議会に上程した。
勉強会の中で、長野県真田町の教育長とも交流し実践例を聞いた。
中学校が非常に荒れていたという。生徒の家庭生活を調査すると、食生活が乱れ偏りがあった。そのためまず学校給食を改善した。パン食からご飯食に、地元産で有機野菜を出来るだけ使い、肉の代わりに魚を出した。各方面からの取り組みによって学校の荒れがなくなった。万引きもゼロになった。この取組み例から、食から街づくりが出来ると確信し、鈴鹿市でも実践してみたく条例づくりに動いた。
『鈴鹿の地産地消推進条例』は31議員のうちの18名がかかわり、会派も8つあるが、共産党、公明党、自民系、民主系すべてが入って出来上がった。
条例は、地元のものを食べなさい、という命令ではない。出来るだけ、地元のものを使って、地元を応援していこうという条文になっている。
さてこの条例が現在どうなっているか。施行するのは行政機関で、条文には推進協議会をつくることが謳われ、協議会が、計画案を作り、実施することになる。ところが、6月議会での答弁では、「今年度中を目途に取り組みたいと考えている」という回答だった。意気込みが感じられない。逐一働きかけていかないと行政は動かない。
私はいずれ 鈴鹿市を有機農業タウンにしていきたい夢がある。国の医療費は35兆円と膨大だ。病気にならない、予防のための食習慣を勧めていくためにも有機農業を推進したい。そのための勉強会もやっていきたいと強く思っている」
と締めくくった。
■地産地消は安心安全?
杉本氏の発言を受けて、楠部氏より「食卓からのまちづくり〜地産地消の取組みと課題〜」と題して、発表があった。
楠部氏の意見は、私達が漠然と抱いているイメージを、本当はどうなの?と問い直す指摘が多い。毎回、固定観念に気づかされることがある。今回も地産地消の思い込みを打ち砕いてくれた。
楠部氏
食料自給率が低下した本当の原因は?
「日本の食料自給率は1965年では73%あったが2009年には40%に低下している。ところが国内の食料生産量は、それほど落ちてはいない。では、何が変わったのか?
食べる物が変わっただけだ。大きく変わったのは米を食べなくなった。カロリーをほとんど米でとっていたのが、米以外のパンや肉類で取るようになった。それらを国内では生産していなかったため、輸入しようとなった。自給率という数字で見ると非常に小さくなっているが、現実のところ、国内生産は落ちてはいない」
「こんな20年30年という短期間で食べる物が変わってしまった国というのは世界的にも珍しい。今、新興国である中国やロシア、ブラジルでは、これと同じ現象が起きてはいるので、穀物が足りなくなってきている」
「 生産量は落ちてはいないが、生産能力は落ちている。専業農家は減少し続け、しかも専業の6割が65歳以上の高齢者になっている」
この他、日本の農業事情を、農j地や労働力、経営規模の変化を示し、また、消費者意識についても解説を加えた。
つづいて、 「地産地消への期待」と題して、消費者が漠然と抱いているイメージや効果などを分析し、地産地消の時代背景にも言及しながら、実際の取り組み状況などを報告した。そして、「地産地消の未来は明るい?」という問題提起に至る。
ここでも私たちは虚を突かれる。
「地産地消と食の安全性とがイコールのように言われるがまったく根拠がない。地元で作り地元で消費すると安全のように言われるが果たしてそうだろうか。どうやって栽培しているかが重要だ。ところが皆さんあまり気にしない。ここがうやむやになっている」
楠部氏の指摘で漠然と 「地産地消=食の安全・安心」という思い込みに気づかされた。問題はどうやって栽培したかが問われるべきだ。
「地産地消のものを買っているのはお年寄り世帯が多いという調査結果がある。子どものいる若い世帯は、調理する時間もないので買う余裕がないようだ」
消費者は思ったほど地産地消のものを購入しているわけでもない。
消費者は顔など見ていない。見ているのは…
「地産地消は、信頼できるか? 顔のみえる関係というが、直売所にいって生産者と会う人はほとんどいない。顔は別に見えていない。野菜に生産者の写真を貼っているが、購入するときに消費者はどこをみているか、調査すると、写真などを見ている人はいない。見ているのは価格と鮮度ぐらいだ。よく“顔の見える関係”と言うが何だろう?」
「 なぜ直売所のものは安心で、スーパーのものは危ないと思っているのか、理由が分からない」
また、国内のトラック輸送にかかる環境負荷が海外から船で運んだときよりも大きいこと。、地産地消は地域活性化になる、という期待についても、農業者が高齢化しているので、どういう意味があるかか、若い世代を取り込む工夫はみられない、
といった、先入観、思い込みなどを改めて指摘した。
以上の地産地消に関する問題点・課題を挙げた上で、実現の可能性について話は進んだ。もちろん展望もしめされた。
それには、安全な農産物を作るための農家の育成。農業環境の整備。地域の食文化の育成。農産物の本質や価値を理解できる消費者の育成…
「思っている以上に農業の基盤が衰退している。農家を育てるには、消費者を育て、農業に参画していく必要がある。地産地消を推進していくことが、国内生産の安定につながると思う。ここからやっていかないといけない」と結んだ。
将来を見越した理論を
内藤氏はあえて地産地消を推進する意味を問い正す。現状をいえば、工業製品を売って、得た利益で安い農産物を買うことには何ら問題がないという学者もいるという。そういった考えに理論的にも説得できなくてはいけないという考えだ。杉本氏に「地産地消を勧める意味が本当にあるのか」と訊ね、そこに答えていく杉本氏。「地産地消と有機農業をリンクさせていきたい」と強調する。
食料の質と量の問題、現在と将来の問題、 食とは何かという理念・哲学の問題と会場の意見を整理していく内藤氏。
会場からは
若者世代が安心出来る農業を
農産物直営所を経営する後藤さん
「地産地消という前に、まず地域農業をどうするかが問題。生産者の年齢は65歳以上だ。10年20年先のことを考える必要がある。農業をする20代30代をどう育成していくかが大きな課題だ。
そのためには今の不安定な市場流通の中で、若い世代に農産物をつくってくださいといえるかどうか。先の農業が見えるために価格改正が必要だ。安心して従事出来る環境を整備していくことが我々の仕事かと思い、今、直売所を経営している」
若い世代の育成に心を砕き、地域農業が抱える問題を熱く語る。
農の喜びを味わって
エコビレッジの活動をする須賀さん
「今、中食がブームになっている。地産地消で安全な食材を使った惣菜などを作りビジネスにならないか。安全・安心な農産物を求めている人もいる。庭先で野菜を作り、作る喜びを味わうことで、生産者と消費者がもっとミックスしていけるのでは」
食の価値を見直す
流通業の鈴木さん
「流通業の立場で量販店を支えてきた。しかし流通が食と農を分離し対立するものにしてきたと思う。食べ物を流通価値で見るのではなく、食べ物そのものの価値から見出していけないか」
農業をしたい人はたくさんいるが‥
岡崎から500ccのバイクで駆けつけた土居さん
「私も農業がしたくて、畑を借りてやっている。農業をしたいという人はずいぶんいるが、農家は土地を持っていて耕作放棄地も増えているが、心配で貸したがらない。ここにギャップがある。
近所の農家とは、出来た野菜を譲ったり譲ってもらったりしている」
競争しない経営を
アズワンファームの中井さん
「アズワンファームで若者と農業をしている。直売所に野菜を卸すにしてもそこの中卸業者の運営の仕方で他の農家と価格競争をせざるを得ないことがある。孫の小遣い稼ぎで値を下げられるとついていけない。後藤さんの直売所は農家を支えていく立場をとっているので、価格競争が起きない。直売所の経営や運営の仕方でずいぶん農業者の立場は変わってくる。そういう人との連携が大きな力になっていくのでは」
「学校給食を地元産のもので、とずいぶん働きかけてきたが、そこには地域“愛”が必要だ、本気で進める人がいないと、行政はなかなか動かない」
学校給食を地元産のもので、という取組みについても多くの発言があった。
私が出来なくても
社会活動に精力的な中山さん
「私はまったく料理が出来ない主婦。周囲の協力で、母親はダメでも子どもは、食文化の学校にいったり、祖母が料理を教えてくれたり、夫が私より上手になったりと、助けられている。母親がダメでも子どもがそうなるとは限らない。人とのつながりを大事にしたい」
身近なところで農業を
福田さん(大学院生)
農家が流通の規格に合わせて作らないといけない現状を嘆く。本来の農業はどういうものか、以下は、セミナー後に改めて発言した内容だ。
「食と農は、離れたものでなく、身近で当たり前のことだと思う。僕は街のはたけ公園で作物をつくり、それをコミュニティの店に卸してしる。その店では、誰々が作った野菜というラベルが貼られている。買う人もそのラベルをしっかり見て買っている。買った人と野菜の話が出来る。そういうのが面白い。そういうふうに日常的にやっていけたらいいな、と思っている」
メディアを生かして
「FMすずかでは、毎回、学校給食の献立を流している。親が子どもたちのメニューを知ることが出来る。食への関心を高めている」
地産地消について(参加者の声)
地域で具体化を
(文と写真:いわた)
次回「第3回エコライフチャレンジセミナー」のお知らせ
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