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心を忘れたことが危機%I状況

映画『女と男の危機』1992年、監督 コリーヌ・セロー


大嶋さんの講座 大嶋優さん

女と男の危機を観て

             吉田順一
2017.08.14 Monday
キネマクラブ 「女と男の危機」大嶋優さん解説による

7か月振りの大嶋さん解説による映画会。今回取り上げた映画は『女と男の危機』。"危機"という言葉から連想される"暗い、壊れる、危ない"というイメージが、忘れ去られてしまいそうなくらい、早い展開に僕の頭は混乱をきたした。静かな朝のベッドの上から始まった映画は、あっという間に波に飲み込まれてゆくように、耳をふさぎたくなるような喧噪の中に落ちていった。言葉の波だ。

主人公のヴィクトールが目を覚ますと、隣にいるはずの妻マリーの姿がみえない。「なんでだ、どうしたというんだ。マリーはどこへ行ったんだ」男の子と女の子二人の子供も、きょとんとした感じで、お母さんがいない、家出したということが信じられないようだった。丁度バカンスの始まる時期だったのだろうか。その用意をしている様だった。

会社に行った有能な会社のお抱え弁護士でもあるヴィクトールを待っていたのは、"解雇通告"だった。「本当にこんなことが起こるなんて信じられない」そんな気持ちを誰かに聴いてもらいたい。わかってもらいたい。だけど、話に行った先々で、自分の話より、友人たちのもっと"危機的状況"を耳にしてゆく。離婚に次ぐ離婚で、誰と誰が今カップルなのかわからない。考えるのも面倒になるくらいの気持ちになった。

「こんなに複雑になってしまうのかな?こんがらかってしまうのかな?」と思ったりもした。これは、映画の中だけ、フランスのことだけとは思えなかった。



ミシューとの出会い

この映画の中で重要な役割を果たすことになる中年の男。浮浪者ではないけれど、それに近い感じの男。この男、ミシューが出てきたあたりから?映画は喧噪の世界から少し静かさを取り戻していったかな?

映画の中の芯といったらよいか、それを思う時、僕にはヴィクトールとミシューの心のやり取りがあげられると思える。何気ないたくさんの会話が二人の間で交わされてゆくのだけれど、僕には今二つのことが思い浮かぶ。

その一つは、ヴィクトールから、「なんで俺の後をついてくるんだ」と問われた時に、ミシューは「あんたは俺がいないとだめになってしまう」みたいな言葉を発した。それともうひとつ、同じような場面からだったか、ヴィクトールから問われた時に、ミシューは、「あんたが、お金を持っているからだ」みたいに僕は聴いた時があった。「正直に言ってみろ」というヴィクトールの言葉に反応してミシューが発した言葉だった。

映画は後半になるにつれて、落ち着いてきて僕も安心して観てゆけるようになってきた。

 ジャミラ

そこに映画のハイライトとでも言おうか。ジャミラ"という病身でベッドに横たわったままの女性が登場する。 ここで初めて彼女に本当に本当の気持ちを、ヴィクトールは聴いてもらえたのではないだろうか?そして、ジャミラが彼に伝えた秘密の言葉とは何かということ。それは、相手の心を聴こうとすること、何をその人が本当に願っているのか、"愛するということはどういうことなのか。そこを、彼女は彼に伝えたのではないだろうか。

映画のタイトル"危機"ということも、なにをもってそういうのか、まず現状を知って、自分の中がどうなっているのか、そこを自覚して初めて、自然に相手に対する愛情がわいてくるのではないだろうか。そうした心の本来の状態を忘れてしまって、自分のことのみ最優先して一喜一憂してゆく人の姿こそ、"危機的状況"と言えないだろうか。 今はこんな風に感じています。

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次回のお知らせ
第33回 大嶋優の「映画を通してフランス文化を知る」講座
2018年2月4日(日)午後4:00〜映画解説『大統領の料理人』

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